インターネットにおけるWeb同意の透明性向上およびユーザー保護を目的とした「一般社団法人ダークパターン対策協会」がこの度創設され、その設立と同協会が設置する新たな制度の発表会が10月2日に東京都内で開催されました。会場では、同協会の代表理事に就任した小川晋平氏と理事のカライスコス アントニオス氏が、同協会の設立目的やWebの中に潜む「ダークパターン」の現状などを説明。また、後半のトークセッションには、水泳競技・五輪金メダリストの北島康介氏がゲストとして登場し、日常の中で感じる自らのダークパターン被害経験などが語られました。
・画面に表示される同意規約の文字が小さすぎて、内容をしっかり読まないまま同意してしまう。
・サブスクサービスを解約したいけど、解約までの導線が複雑でよく分からない。
・よく訪れているサイトで、昨日クリックしたばかりの同意バナーがまた出てくる。
・ホテル予約サイトで「○○人が同じ宿を見ています」という表示に焦りを感じ、情報をしっかり確認しないまま予約ボタンをクリックしてしまう。
きっとこれらは、日常的にインターネットやモバイルアプリを利用していれば誰しも経験があることではないでしょうか。こうしたユーザーにわかりづらかったり、悪意のあるインターフェイスのことを「ダークパターン」といいます。この度、株式会社インターネットイニシアティブを発起人として、同社を中心に展開されてきた「Webの同意を考えようプロジェクト」を発展的解消する形で新たに設立された「一般社団法人ダークパターン対策協会」は、「非ダークパターン認定制度(NDD認定)」の運用などを通じて欺瞞(ぎまん)のない誠実なWeb環境作りを目指す組織です。
この日の発表会では、同協会の代表理事で株式会社インターネットイニシアティブ ビジネスリスクコンサルティング本部長の小川晋平氏が初めに挨拶。同意が求められる場面が増えたことで起こっている「同意疲れ」や、ユーザーが規約類をほとんど読まずに同意してしまう「形骸化された同意」の問題に触れた同氏は、その解決に向けて消費者が正しい選択判断ができる誠実な環境作りに取り組んできた「Webの同意を考えようプロジェクト」のこれまでのあゆみを振り返りつつ、今後さらに活動を推進していくことを目的に、一社中心ではなく中立的な立場の組織として同協会を新たに立ち上げた経緯を語りました。
次に同協会の理事で龍谷大学教授のカライスコス アントニオス氏が登壇し、協会の設立目的などを説明。
同氏は、同意確認の手続きに適切な情報提供が行われているサイトと明らかに違法な面が見られるサイトの例をあげつつ、その間にある、説明やデザインの面で消費者に不親切で同意のプロセスが“グレーゾーン”なサイトの問題点を指摘し、そうしたグレーゾーンなサイトを第三者視点で審査し、誠実なサイトに改ざん不可なロゴを与えるNDD認定設立の必要性を強調。その上で「消費者の86.2%が何らかのダークパターンを経験している」、「消費者の89.4%がダークパターンを駆使している企業から商品やサービスを購入することに抵抗を感じている」「消費者の30.2%が過去1年間にダークパターンから金銭的被害を受けている」という3つのアンケート結果を示しつつ、消費者がダークパターンの被害として認知している金銭的被害額は推定1兆500億円強から1兆7000億円弱にのぼることを紹介し、「これはWebの同意を考えようプロジェクトが想定していたよりもはるかに大きな数字で、もはや無視できない状況になっています」と危機感を述べました。
後半では、水泳競技・2大会連続五輪金メダリストの北島康介さんをゲストに招き、株式会社インターネットイニシアティブ ビジネスリスクコンサルティング本部の石村卓也氏とのトークセッションが展開されました。
北島さんは、まず初めに「僕には難しい話かもしれませんが、知っておくべき重要なことだと思うので、今日はしっかり勉強して帰りたいと思います」と挨拶。続いて司会者から、普段“Webの同意”について考えることはあるか尋ねられると、「ないですが、ここまでの話を聞いていたら、最近頻繁にインターネットで出てくるなって感じました。深く考えないでクリックしたりとか、言われてみたらそうだったなってことはたくさんありますね」とコメント。また、ダークパターンという言葉を知っていたかという質問には「知りませんでした。何だか言葉からして怖い印象ですよね」と消費者目線の率直な感想を語りました。
その後は石村氏が、特定のWebサイトでの行動履歴や購入履歴がWebブラウザに保存される「クッキー」、初めて訪れたサイトでクッキー使用の同意を求めてくる「クッキーバナー」、Webの行動履歴に基づいて表示される「ターゲッティング広告」など、Web同意に関わる基本的なキーワードについて説明。また、クッキーの使用において、ユーザーから明示的な同意がないと使用が許可されない欧州の「オプトイン方式」と、広告目的のクッキーであればユーザーがいつでも拒否できる権利を与えなければならない米国の「オプトアウト方式」という2つの規制を解説し、「日本では、基本的にクッキーの利用目的についてユーザーに通知、もしくは公表をすれば使用が許可される規制になっています。その中で、プライバシー保護をしっかり対応しているという姿勢を見せるために、最近は大企業のコーポレートサイトを中心にクッキーバナーを出すケースが増えてきています」と付け加えました。
そのほかのWeb同意の場面についての解説も聞いた北島さんは、「すごく安易に考えていました」と目から鱗が落ちたかのような表情。その上で「日本と海外の違いもおそらく多くの人が知らないことですし、幅広くいろんな方に知ってもらえる機会を作ることが大事なんだなと思いました」と話しました。
そこからは北島さんがWeb同意に関するクイズに答える形で、ダークパターンについて解りやすく学習。その中では、「“1か月無料”のサービスに契約したら、知らない間に2か月目以降の料金引き落としが始まっていた」という北島さん自身の体験談のほか、石村氏から「ダークパターンの類型を認識した上で、怪しく思った時はそのまま同意せず、一度立ち止まって商品やサービスの購入を冷静に考えてみることが重要です。また、クッキーバナーに関しても拒否するボタンが見つからなかったり、クッキー設定へのリンクが薄い文字で書かれている場合など、無理に同意へ誘導するWebサイトには気を付けていただきたいです」というアドバイスもありました。
「今日の話を聞いて考えなければならないことが増えましたね。ダークパターンというのは企業の信頼にもつながることなので、企業とユーザーの両方が良い形で進んでいくことが理想的なんだと感じました。いろいろ深い領域なので、もっと勉強したいと思います」と終わりに述べた北島さん。北島さんの消費者視点を通じて会場全体がダークパターンについて学ぶ場になっていました。
「非ダークパターン認定制度)」は来年1月初旬にガイドラインとロゴマークを発表予定。その後、7月からの運用開始を目指して準備を進めているとのこと。スマホひとつであらゆる便利が得られる反面、クリックひとつで思わぬ危機に陥ることもあり得る今の時代、一般社団法人ダークパターン対策協会が創る新たな制度が、安心的なウェブサイトの目安として定着することに期待しましょう。
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