株式会社SmartHRが11月23日の「勤労感謝の日」に、「WORK DESIGN AWARD 2023」授賞式を開催。2021年から始まり、今年で3回目を迎える同アワードは、「働き方」や「働きやすさ」について考えるきっかけづくりを目的としたもので、今回はエントリーされた106件の取り組みの中から“ACTION”、“PRODUCT”、“PERSON”の部門賞各5組を審査員がノミネート。そして、1万人のビジネスパーソンによる投票で、その中からもっとも優れた各部門の取り組みがグランプリを受賞した。
企業などの組織や団体、個人の働き方を前進させることに貢献した取り組み、活動、制度、組織文化の創造などを対象とした部門賞。
自由な出社・退社の選択と超フレックスタイム制を導入。社会復帰を目指すための第一歩に
ワンぽてぃと
■取り組み名
ひきこもりや不登校をサポートする新たな働き方の実現
■取組概要
ひきこもりや不登校の方たちが、社会復帰を目指すための第一歩となる働き方がないことに着目。当事者の方たちは、長時間働くことや毎日会社に出勤することは難しく、人との交流や社会との繋がりを徐々に持てるようにする必要があった。
そこで自由に出社・退社が選択でき、一般企業のように賃金を支払うシステムを運用。ひきこもりや不登校に理解ある方々と訓練でき、安心して働きながら自信をつけて日々向上していける仕事場を提供した。また、15分から働くことができ、時給も発生する「超フレックスタイム制」を実施。出社日のルールは設けずに当事者の状況に合わせて働くことを可能とした。メディアを通して、取り組みを理解いただいた方が来店されることで当事者の働きやすさを実現し、はじめはキッチンで声も出せなかった方が、料理を運べるくらいに成長していく姿を何度も見ることができている。実際に就職に結びついた方も多数。
60歳以上の女性従業員のみを雇用し、特性を活かした接客や商品開発を実施
株式会社NEXT LEVEL
■取り組み名
少子高齢化を問題とだけで捉えるのではなく、高齢者の個性、特性を生かした高齢者雇用の笑始高齢化飲食店運営
■取組概要
認知症の治療として仕事をすることが効果的だが、高齢者が働ける環境は少ない。奥芝商店でも従業員は若年層が多かった。そこで、主婦業を長年行ってきた高齢者女性に着目し、60歳以上の女性従業員しかいない「スープカレーおくしばぁちゃん」を開店。コンセプトに合った接客マニュアルを彼女らが考案し、昭和当時の雰囲気を再現した。また、彼女らに商品開発アイディアも投げかけ、副菜などを商品化し提供した。
結果として優れたSDGs活動であると札幌商工会議所より表彰を受けたほか、従業員の応募が殺到し、人材不足問題を解消した。コンセプトと高齢者女性ならではの接客が話題になり行列のできる繁盛店になった。
ネコ型配膳ロボットの導入により、従業員の増加と働き方の改善を実現
株式会社すかいらーくホールディングス
■取り組み名
ファミリーレストランでの配膳ロボット3,000台導入と日常への定着による多様な人財の活躍推進
■取組概要
コロナ禍を経て店舗体験価値の向上は一層重要となり、人財育成の取り組みを強化する必要があった。その一環としてDXの活用で新たな店舗体験価値や働き甲斐、雇用の創出の実現を目指した。
コンセプトとして、ロボットによる業務改善を進める一方で、人にしかできないサービスを充実させ、働き甲斐を醸成することがあった。
実際に、ネコ型配膳ロボット3,000台をグループ約2,100店舗に導入。インストラクターが全国の店舗でレクチャーや改善を重ね、成功事例をグループ全体に横展開し、個店ごとにデータを分析した。従業員の身体的な負担は軽減し、65歳以上の従業員は5年間で約3倍になるなど環境整備につながった。業務が覚えやすくなり働き方にも寄与した。
マスクの色で日勤者と夜勤者を区別化し、月残業時間が大幅減少
医療法人社団 仁生会 甲南病院
■取り組み名
日勤者と夜勤者を視覚化することで交代の意識を高め、残業削減とワークライフバランスを充実させる
■取組概要
マスクの色で日勤者と夜勤者を区別化し、月残業時間が大幅減少
日勤と夜勤を視覚化し、申し送りを効率化することで残業時間の削減を狙った。また、勤務終了者が明確になることで労いの言葉を掛けやすくなるなど、働きやすい職場作りの風土と帰属意識の向上を図った。具体的には、マスクの色での日勤者と夜勤者の区別化を実施。勤務終了時刻が過ぎた人を分かりやすくすることを試みた。
マスク着用はもともと習慣化していたがコロナ禍により以前にも増して定着。前年度と比較した結果、月残業時間が大幅に減少した。夜勤者の把握や残業時の声掛けも生まれたほか、新聞社の取材や他施設から見学希望が複数あった。
注文に基づき漁獲量を調整。後継者問題や水産資源の持続的利用に貢献
邦美丸
■取り組み名
完全受注漁による持続可能な漁業と地域経済の革新
■取組概要
漁業を取り巻く問題として、不安定な収入や長時間労働、高齢化や後継者不足などが存在する。また、過度な漁獲により持続可能な水産資源の確保が困難な状況だった。
そこで完全受注漁では、既存のECサイトやSNSを活用して漁の受注を行い、注文に基づいて漁獲量を調整。SNSで魅力的な職業・働き方をアピールした。自ら価格設定することで収入を安定にし、後継者問題の解決や、無駄な漁獲をさけ水産資源を未来に残すことにも繋がる。
結果として操業時間は14時間から6時間へと減少、売上は2倍に。YouTube動画は500万回再生を記録し、求人応募が2倍に増加した。50社のメディアの取材や他アワード の受賞、小泉進次郎氏との対談も実現。海外からも評価を受けている。
働き方の課題解決や働きやすさを前進させることに貢献したプロダクト・サービス・コンテンツなどを対象とした部門賞。
福祉と経済の断絶を埋めるプラットフォームを設立し、就労困難者を支援
VALT JAPAN株式会社
■取り組み名
就労困難者特化型BPOプラットフォーム「NEXT HERO」
■取組概要
働きたいのに働けない人がいるという不均衡がある中で、単に企業と障がい者をマッチングさせるだけでは障がい者のスキルや特性を見極めていないことが多く、業務が持続しないことが多い。
そこでVALT JAPANが受注窓口となってBPOの仕事を請け負い、全国の就労継続支援事業所に業務を分配するという、福祉と経済の断絶を埋めることをコンセプトにしたプラットフォームを設立した。実施内容としては、社員がディレクターとして企業と就労継続支援事業所のハブとなり、業務の切り出しやハンドリング等を担当。福祉的思想で就労困難者を支援するのではなく、企業の戦力として就労困難者を活躍に導いた。
その結果、事業所のワーカーの賃金(工賃)が増加し、中には人生で初めて一人暮らしを始めた方もいる。現在、ワーカー数は4万人になり、2,000事業所・累積400種類以上の仕事を受注。
発注者と職人の直接マッチングシステム構築により、スキルアップと人材不足解決を目指す
野田配管工業株式会社
■取り組み名
教育型建設業マッチングサービス「現場のヒーロー」
■取組概要
技術のある職人の引退、若い人材の育成不足による技術の低下から施工不良が蔓延し建設コストが増大していること、下請け構造で職人の収入が低いことが課題。
そこで発注者と職人を直接マッチングするシステム「現場のヒーロー」を構築した。技術ランク認定試験により、自分の技術ランクを認識しマッチング先の募集ランクにあった応募ができる。また、職人が技術知識を得て、作業完了までの一連の知識を学べる動画講座「現場の極意」と、作業ミスを減らすための作業効率化アプリ「配管七つ道具」を実装。
現場のヒーロー会員数は1,193名。配管七つ道具は28,000ダウンロード、SNS動画は1,000万回再生、SNSは計38,000フォロワーを達成した。
手作業が占めていた映像のモザイク入れ業務をAIで自動化。作業時間の90%を削減
日本テレビ放送網株式会社
■取り組み名
AIモザイク編集ソフト「BlurOn」
■取組概要
TV・映像業界ではモザイク入れが大きな手間になっている。単純な手作業のためモチベーションが低下しやすい一方で、年々個人情報保護の要求が高まり作業は増加傾向にある。
AIを用いてモザイク入れ作業の課題解決を目指すことをコンセプトにプロジェクトを始動。映像業界全体の働き方改革の一環として社外へ展開した。NTTデータと共同でPoCを開始し、AI技術でモザイク入れ作業を自動化できる「BlurOn」を昨年7月にリリース。認識精度は99%で、作業時間を最大90%削減することに成功。導入した制作現場の働き方改革に貢献したほか、TV局以外の映像業界やドラレコや車載カメラ映像を取り扱う自動車業界などにおいてもリーチを拡大した。
シングルマザーのスキルアップ支援で、女性の就労問題とデジタル業界の人材不足に貢献
株式会社フォーデジット
株式会社レキサス
しんぐるまざあず・ふぉーらむ沖縄
■取り組み名
MOM FoR STAR(マムフォースター)
■取組概要
沖縄のシングルマザーの就労問題と全国的なデジタル人材不足の問題、相互にメリットのある仕組みの構築を目指し、プロジェクトを開始。参加するシングルマザーは未経験から研修し、研修後には東京の企業の業務を沖縄の平均水準以上の時給で働き続けられる体制になっている。また、研修中から時給制で雇用し、新しいチャレンジを経済的にもサポートできる支援体制となっている。
プロジェクトは3年目。通算14名のメンバーと34名の子供達。チャレンジする母親の姿を見て子供達が家事を分担しあったり、不登校だった子が進学を決めたりと、子どもたちにも様々な変化が起きている。沖縄の社会課題解決の事例としてテレビ・新聞などに掲載され、女性の活躍推進の事例として政府勉強会にも取り上げられた。
話を聞いてもらうWebサービスの開発により、聴く力を持つ人が能力を活かせる仕事をつくる
株式会社Lively
■取り組み名
話を聴くが仕事になる「LivelyTalk」
■取組概要
望まない仕事で心を消耗してしまう人や、自分は価値のない人間だと孤立してしまう人がいる一方で、聴く力を持った人が能力を活かせる仕事が普及していなかった。
そこで、話を聴くのが得意な方を募集し、多種多様な人に有料で話を聴いてもらうWebサービス「LivelyTalk」をリリース。オンラインで好きな場所・時間に自分のペースで働ける仕事をつくることで問題の解決を図った。業務は聴くことに特化した内容にし、それぞれの人生経験を活かした働き方と、成長の機会と仲間を得られる仕組みを目指した。
聴く仕事の応募者数は4,122名にのぼり、審査を合格した聴き手が現在109名在籍。半年間の利用者は延べ1,000名を超え、社会のニーズに応えている。
働き方や取り組みが、世の中に新たな気づきや前向きな影響を与え、働きやすさを前進させることに貢献した方を対象とした部門賞。
お笑い芸人
ぼる塾
■取り組み名
柔軟で持続的な働き方を4人で考え 実践
■取組概要
“無理をしない”をテーマに、長くお笑い芸人として活動できるよう働き方を工夫。時間が変則的なテレビ収録には3名体制、舞台には4名体制、育休明けの酒寄さんはエッセイやコラムでも活動するなど、 時短や変則体制を取り入れる。ライフスタイルを守り、希望のライフプランを実現するために、柔軟に働き方やチーム編成をメンバーで対話しながら作り上げていく様子が SNS やコラムでオープンにされていることもあり、業界のこれまでのあり方にとらわれずメンバーで支え合いながらカルテットを成長させていく様子が多くの働く女性の支持を得ている。
光文社『VERY』統括編集長
今尾 朝子
■取り組み名
働く子育て世代の読者の悩みに寄り添い、発信を続ける
■取組概要
『VERY』編集長就任後、子どもができてからは17 時半に退社する働き方を選択するなど、女性編集長が後に続くよう働き方を工夫しながら現在は統括編集長として業務を継続。編集長就任後、メイン読者として「専業主婦」だけでなく「働きながら育児をする女性」にもフォーカスしていった。完璧な家事育児でなくても良いことを伝える企画や、忙しい中でのパートナーとのコミュニケーションのもやもやを考える企画など、読者と向き合い誌面に反映する。ターゲットの価値観をアップデートし支える媒体となっている。
名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授。博士(教育学)
内田 良
■取り組み名
教員の長時間労働を見える化し、改善のための研究・啓発に取り組む
■取組概要
教育現場を変えるための署名や提言を多数行うほか、著書で教育現場の変革を訴える。
これまで参加した署名や提言の代表的なものとして、給特法に関する署名 (2018年)、変形労働制に関する署名 (2019年)、給特法に関する署名(2022年) 、給特法見直し議論に向けた提言(2023年)がある。
特に、教員の残業が無かったことにされてしまう原因の 一つ「給特法」に関しては、「給特法のこれからを考える有志の会」の一員として、法律の廃止はじめ労働環境の改善を求める活動を行う。有志の会 のみならず 、これまでも教育現場の環境改善のために活動し、多くのメディアに取り上げられてきた。
俳優・映画監督
斎藤 工
※写真使用不可
■取り組み名
日本の映像業界における変革とカルチャーの継承に取り組む
■取組概要
映画やドラマの撮影現場で働く女性の多くが、妊娠・出産を機に辞めざるを得ないことへの問題意識をきっかけに、5年前から撮影現場に託児所を設置する取り組みを行う。また、厳しい制作予算のしわ寄せがキャストの食事に向き、心身に影響を及ぼすことから現場で手配する食事に気を配るなど、映像制作現場の環境変革に取り組む。
さらに、働き手不足や閉館が相次ぐミニシアターへの支援や、劇場が少なくなった地域での移動映画館の実施など、カルチャーを絶やさず継承するための、あらゆる環境の改善・改革に取り組む。Mini Theater Parkというプラットフォームを立ち上げ、シアターの収益になる仕組みのグッズ販売など、活動と影響の幅を全国に広げている。
株式会社わざわざ代表取締役
平田 はる香
■取り組み名
“健康的な経営”を長野県から推進・拡大
■取組概要
顧客・生産者・従業員・企業が健康的に産業をつなぐという健康経営のありかたをより多くの人に知ってほしいという考えから「知る人ぞ知る店」を辞め、東京から長野へ移住し1人で開業。
2020 年度には従業員 20 数名で年商が 3 億 3 千万円に到達し、今年も長野県に新業態の店舗を開店するなど地方での事業規模拡大を推進 している。今後も長野・信州をベースに企業規模の拡大を予定しており、移住者が地方で企業を育てるロールモデルに。
また、大量生産・大量消費の時代に何のためにモノを作って売るのかを問うような次の時代のビジネスのあり方を示す。
FC町田ゼルビア 監督
黒田 剛
■取り組み名
組織の役割分担・コンセプトの共有を軸に、コミュニケーション力でチームをまとめる
■取組概要
FC町田ゼルビアの経営基盤が代わり、選手もほぼ一新され新しいチームになったタイミングで監督に着任。青森山田のサッカー部監督時代から重要視してきた組織の役割分担を実施。監督がすべてを担うのではなく、監督・コーチ含むスタッフ・選手の一人ひとりが自分の役割を理解し、そのポジションで責任感を持って進めることで、ブレない自立した組織を作る。また、チームのコンセプト・進むべき道を細かいコミュニケーションで徹底的に共有。リーダーとしての手腕、なかでもコミュニケーション力は、企業の代表取締役が評価するほどで、ビジネスのチームビルディングにも通ずる。
こうした組織改革の成功もあり、今年就任初年度で、チームをJ1昇格へ導いた。
授賞式の様子を取材していて感じたのは、受賞者(受賞団体)の取組概要は誰しもが日頃から不便に感じていたり、改善しなければと考えていたりすることが大部分を占めていることだった。ただ、それを思い付くのは誰でもできるが、実際に改善まで持っていけるかどうかは別問題。今回の受賞者たちはその不便さに真っ向から取り組み、行動に移すことで立派な実績をあげたわけだ。逆に考えれば、我々も感じたことを改善すべく行動に移せば結果が伴う可能性があるということ。不満を飲み込んでしまわず、解決のためのアクションを起こしたいと強く考えさせられた。
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