• 話題
  • その不調、食生活の偏りが原因かも!?日本人が不足しがちな栄養素とその対策

  • 2024/05/19 08:00 公開  舌肥
  • “疲れやすい”、“疲れが取れない”、“元気が出ない”そんな悩みを持つ人は多いのではないだろうか。そのような疲労感や倦怠感は、栄養不足が原因かもしれない。この飽和な時代に栄養不足?と思うかもしれないが、現代の日本人の食生活は、経済の発展や食の西洋化により大きく変化している。コンビニやデリバリーなどで食べたいものが気軽に手に入り、特に若い世代やフルタイム勤務の会社員など、調理に時間の取れない忙しい人にとって便利な加工食品や外食の利用が増加。便利になった一方、偏った食生活になりやすく、栄養バランスが乱れ、体調不良、さらには生活習慣病を引き起こすこともあるのだ。
    では、実際に栄養が偏ると体にはどのような影響があるのだろうか。今回、静岡県立総合病院リサーチサポートセンター臨床研究部長の田中清先生のお話のもと、食生活の偏りが原因で起こる体の不調や日本人が不足しがちな栄養素などをお伝えしよう。

    栄養不足の原因や起こり得る症状

    飽和な時代、なぜ低栄養に陥ってしまうのか?

    低栄養素とは、体内のたんぱく質などが不足し、身体機能の維持に必要な筋肉や骨を作るための栄養が足りない状態。人間の体は健康的に生きるために必要な栄養素として、たんぱく質のほかにも脂質や炭水化物、ビタミンといった様々な栄養が欠かせない。1日に消費する栄養に対し、摂取する栄養が足りないことで起こるのが低栄養だ。
    低栄養の主な原因としてあげられるのが、「食事量の低下」。特に高齢者は全身の筋力が低下し、噛む力が衰え満足に食事を摂取しにくくなり、食事量が低下しやすくなるため、低栄養状態に陥りやすいと言われている。また、若者の間で低栄養が増えている原因として挙げられるのが、ダイエットや美容の為の食事制限や、偏った食生活。例えば、パスタのみの昼食や、パンとコーヒーのみの朝食など、炭水化物が多めの食事が代表的だ。また、ファーストフードやインスタント食品の摂りすぎも、脂質・糖質は多めである一方、ミネラルやビタミンが極端に不足し低栄養状態の原因となる。

    低栄養状態になるとどんな症状が出る?

    【集中力の低下】
    栄養不足になると、「頭がボンヤリする」「仕事中や活動時間帯に眠気を催す」などといった集中力や思考力の低下が症状として現れる。大きな原因は『炭水化物』不足。糖質制限によって極端に炭水化物を控えると、ブドウ糖不足が起こるため、頭がボンヤリしやすくなる。また、炭水化物をブドウ糖に変換する栄養素、『ビタミンB群』の不足も脳の働きを低下させる原因。つまり炭水化物ばかりを食べていても、脳のエネルギーにはならないため、『炭水化物』と一緒に『ビタミンB群』を摂ることで、脳のエネルギーを効率よく補給できる。

    【体力の低下】
    食事量が減ったり、食事内容が偏ると、必要な栄養素が摂取できないため体力が低下し、活動的な状態を維持できなくなる。運動や外出が億劫になり、毎日を楽しめないのはもちろん、体型の崩れや肥満といった悪影響が出てくる可能性もある。普段の生活で疲れやすいと感じたら注意が必要だ。

    【免疫力の低下】
    免疫力とは人間の体に備わっている防御能力のことで、細菌やウイルス、カビといった体に悪影響を及ぼす病原体の体内侵入を防ぐ。免疫力を損なわないためには、運動や睡眠などのさまざまな要素が必要だが、なかでも重要なのが食事。たんぱく質不足やビタミン不足は、免疫力の低下を促し、特にたんぱく質は、内臓・筋肉の生成に関わるほか、細胞の免疫物質の原料となる栄養素。たんぱく質不足になると筋肉量や内臓の働きが低下し体が冷えやすく、免疫機能が低下するため、さまざまな不調があらわれやすくなる。

    栄養不足は他にも、「不眠」「体が疲れやすくなる」「肌荒れ」など様々な症状を起こす場合もある。栄養不足を防ぐ一番の方法は、“バランスの良い食事”。いろいろな食品を満遍なく摂ることで栄養の偏りによる栄養不足を防ぐことが出来る。

    だるさや疲れには『ビタミン B1』

    昨今世界的にも摂取不足と言われているのが『ビタミン B1』。“疲労回復ビタミン”とも呼ばれる『ビタミン B1』は、インスタント食品や糖質を多く摂る人が不足しやすい栄養素だ。『ビタミン B1』はチアミンとも呼ばれる水溶性のビタミンで、解糖系やクエン酸回路のエネルギー代謝の一部で補酵素として働き、特に糖質の代謝に欠かせない。また、糖質を燃やしてエネルギーに変えるときに必要なビタミンのため、糖質やアルコールを多く摂取する人にぜひ摂り入れてほしい栄養素だ。また、運動によってエネルギー消費が多い人はより多くの『ビタミン B1』が必要だ。なかなか痩せない、疲労回復が遅いと感じる人は、摂取量にも着目してみよう。また、不足すると、ブドウ糖から十分にエネルギーを産生できなくなり、食欲不振、疲労、だるさなどの症状が現れる。脳はブドウ糖をエネルギー源としているため、『ビタミン B1』が不足するとエネルギーが不足し、脳や神経に障害を起こす。重症な場合は脚気(足の浮腫、しびれ、動悸・息切れ)やウェルニッケ・コルサコフ症候群(中枢神経が侵される障害)になり、重篤な場合は死亡することもある。

    『ビタミン B1』が摂取しにくい理由

    『ビタミン B1』は主に食事から摂取され、肉類、魚類、豆類、穀類、種実類などに多く含まれます。米や小麦にも多く含まれるが、精製されると少なくなるため、主に発展途上国など、白米や白い小麦粉の割合が高い食事では欠乏症になることがある。欠乏のもうひとつの大きな原因としてあげられるのが、アルコールの多量摂取です。アルコールを摂取すると、代謝酵素によりアセトアルデヒドに分解され、アセトアルデヒドはさらに体内で分解されて、酢酸に変化する。最終的にエネルギーを作り出すときに『ビタミン B1』が消費されるが、多量にお酒を飲んだ場合は、代謝酵素のみでは分解が追い付かず『ビタミン B1』が必要となる。

    ビタミン B1 が摂れる食材とおすすめの摂取方法

    玄米、胚芽米、全粒粉パンなど胚芽の部分に多く含まれているため、精製されていない食材を選ぶのがポイント。水に溶けやすいので、汁ごと食べられる調理法もおすすめだ。また、ニンニクや玉ねぎに含まれる『アリシン』と一緒に摂ることで吸収率がアップする。

     

    栄養過多も生活習慣病の原因に。バランスの摂れた食事を

    現代人が不足しがちな栄養素として『ビタミン B1』をメインで紹介したが、特定の栄養素ばかりを過剰に摂取してしまうと体に悪影響を及ぼす可能性がある。植物性食品、動物性食品ともにバランスよく摂取することが健康への近道だ。ここからは『ビタミン B1』以外でおすすめの栄養素と、それらの栄養素が摂取できる食材も紹介しよう。

    『ビタミン D』

    『ビタミン D』は腸管からカルシウムやリンの吸収を促進する作用や、骨の成長を促す作用など重要な働きをもつ脂溶性のビタミン。さらに、ウイルスや細菌などの感染を予防する作用も確認されて、免疫機能を高める作用が注目されている。最近の報告では新型コロナウイルス感染リスクを低下させる効果も医学論文で報告されている。

    <ビタミン D が取れる食材>
    きくらげ/鶏卵(卵黄)/鮭(生)/まぐろ(トロ)/舞茸

    『ビタミン B6』

    エネルギー代謝の補酵素として重要なビタミン。特にタンパク質の分解を助けるため、摂取量が多い人ほど、『ビタミンB6』の必要量も多くなる。免疫機能の正常な働きの維持、皮膚の抵抗力の増進にも必要で、赤血球のヘモグロビンの合成にも欠かせない栄養素だ。

    <ビタミン B6 が取れる食材>
    赤身肉/豚肉/マグロ/バナナ/カツオ

    栄養バランスのいい食事を摂ることが重要だが、栄養素の種類は複数あり、それぞれの栄養素が豊富な食品を意識して食べるというのも現実的には困難だろう。偏った食事をしない、同じものばかり食べない、できるだけ多様性を持たせていろんな種類の食品を食べることをまずは心掛けよう。また、食生活を見直しつつも、推奨量を摂取しにくい栄養素に関しては、サプリメントで補うのも一つの方法だ。現代人が不足しがちな栄養素を意識して、この機会に食生活を見直してみてはいかがだろうか。

    静岡県立総合病院リサーチサポートセンター 臨床研究部長 田中清氏 プロフィール

    ~所属学会~
    ・日本病態栄養学会(学術評議員)
    ・日本ビタミン学会(理事)
    ・脂溶性ビタミン研究委員会(委員)
    ・ビタミン B 研究委員会(参与)
    ・日本栄養改善学会(評議員)
    ・日本骨粗鬆症学会(評議員)

    ~主な職歴~
    ・1977年:京都大学医学部卒業
    ・1977~1979:天理よろづ相談所病院 内科系研修医
    ・1983~京都大学医学部附属病院 医員
    ・1984~天理よろづ相談所病院 内分泌内科医員
    ・1984~1986:米国オレゴン大学医学部内分泌内科 Research Associate
    ・1986~1990:静岡県立総合病院 核医学科・内分泌内科 副医長 (1988 医長)
    ・1990~2000:京都大学放射性同位元素総合センター・京大病院 助手
    ・2000~2004::甲子園大学栄養学部 教授
    ・2004~2018:京都女子大学家政学部食物栄養学科 教授
    ・2018~:神戶学院大学栄養学部 教授
    ・2023~:静岡県立総合病院リサーチサポートセンター 臨床研究部長

新着