400年以上の長い歴史のある東京の結婚式場として広く知られている「八芳園」の傘下で、食を中心に交流が活性化するコンテンツをプロデュースする企業として取り組む「株式会社八芳園交流コンテンツプロデュース」は郷土料理に食の多様性を融合する『新・郷土料理キッチン PROJECT』を立ち上げた。
プロジェクトの立ち上げにあたり、2024年9月25日(水)・26日(木)の2日間で開催されたキックオフイベントの初日に行われた事業発表会に舌肥編集部が潜入した。
事業発表会では『新・郷土料理キッチン PROJECT』の紹介のほか、八芳園シェフによる新・郷土料理のデモンストレーションや試食があり、個別取材では共同開発メニューについて伺った。
事業発表会が始まると、八芳園シェフによる“新・郷土料理「ヴィーガン芋煮カレーうどん」”のデモンストレーションが行われた。
日本の郷土料理をなくすことなく、新たな形で生まれ変わらせて再び輝かせるような企画の『新・郷土料理キッチンPROJECT』では、今回山形で昔から食べられている郷土料理「芋煮」を、さらにたくさんの人が囲って食べられる「ヴィーガン芋煮うどん」として進化させた。
“たくさんの人が囲って食べられる“というのは日本の鍋文化からきているようで、こういった食べ方を含んだ日本の食文化を多くの人と楽しめるメニューになっている。
またカレーうどんにアレンジしたのは、山形での芋煮の締めにカレーうどんを楽しむ人が多いということで、そういった食文化も伝えられることも逆算して考えたんだそう。
そしてインバウンド需要が高まっている今、注目したのが「ヴィーガン」だ。
日本でもヴィーガンのような食事を意識する方は増えてきているが海外では特に「ヴィーガン」が多く、このインバウンド急増のタイミングでより多くの人に食べてもらうことを考えた時、肉や魚、乳製品、卵などの動物性食品が使われていると、それだけで食べてもらう機会を失ってしまうと考えたそう。
そこで、「ヴィーガン芋煮カレーうどん」の開発でこだわった食材や調味料についても紹介された。
料理の定番調味料である醤油は今回「ハラール醤油」というものが使われた。
イスラーム法で合法なものの事として意味する「ハラール」が名前になったこちらの醤油は、世界的なハラール認証を取得している。通常の醤油は、酵母による“アルコール発酵”をされてつくられているが、ハラール醤油の場合はアルコール発酵を抑制した独自製法でつくられているといい、世界の人々と共通して味わえるこいくちしょうゆ同様の醤油になっている。
実際に会場で、通常の醤油とハラールしょうゆの味比べをした。
比べてみると少し何かが違うかなと思いつつも明確な違いはあまり分からず、普段家庭やお店で使用している醤油と違うものだとは疑うことのない馴染みのある味だった。
醤油以外にも、白味噌や少しの甘酒をコクとうま味を出すために加え、豆乳クリームと麹ミルクをさらに加えて煮込んでいく、という味付けの工程があった。
甘みを加えるのに砂糖だと口に残る甘さが強く出てしまうようで、ナチュラルな甘みには甘酒が最適だそう。お米の粒がある点でも甘みを補え、甘酒のような日本特有の調味料をできる限り使った料理を海外の方々に食べていただくという仕立てをすることも今回の企画のポイントのようだ。
麹ミルクを味見すると、少し豆乳に似たような感じもするが豆乳よりもコクを感じられた。舌触りもまろやかで、塩味のある料理にも甘みのある料理にも合いそうだった。
そうこうしているうちに完成し、会場内はカレーうどんの香りに包まれた。
発表会参加者全員に出来立ての「ヴィーガン芋煮カレーうどん」が配られ、試食することができた。
個人的なヴィーガン料理のイメージとして、お肉や魚が入っていない分、満足感が足りないかと思っていたが、実際に食べてみると味付けの奥深さがあって物足りなさもなく、もっと食べたいと思えるような味わいだった。
米粉100%でできたうどんの麺も、むっちりした食感で噛み心地も楽しく感じた。
ヴィーガンの人もそうでない人も、一緒になって囲んで食事を楽しめるのがとても想像できた。
グルテンフリーやダイエットメニューを求めている人の需要も最近特に高いと感じているので、ヴィーガンやインバウンドの需要以外にも食べたいと思う人は多いのではないかと感じた。
会場内での展示では、「ヴィーガン芋煮カレーうどん」以外にも開発メニューが紹介されていた。
一つ目は、東北のお土産屋さんで見かけることの多い、福島県の郷土菓子「くるみゆべし」。
昔から今も残るお菓子として有名だが、購入する層が一定のファンになっているのではないかという懸念点があるようだった。
進化して生まれたのが「胡桃ゆべしのタルト仕立て」。
サクッとしたタルト生地に、若者に人気のカスタードをのせ、しっとりと弾力のあるくるみゆべしと組み合わせることで、一つでいろんな食感も楽しむことができそうだ。
またフルーツ王国としても有名である福島の特性を活かし、旬のフルーツとして今回はシャインマスカットをのせている。
シーズンによって、桃や梨などその時々の旬のフルーツをのせて楽しんでいただくこともできるんだそう。
続いて、子どもの成長を祝って近所に配るような素敵な文化も江戸時代から続いてあったという、宮崎県の郷土菓子「いりこもち」。
今では、地元の人々でもいりこもちを知っている人は少なっているそうで、作るために使う「煎りもち粉」を手に入れるのも少し難しくなり始めているそう。
シンプルだからこそ、どんな素材とも相性が良いという特性を活かして生まれたのが「煎り粉餅の天ぷら」。
いりこもちをただ揚げるだけでなく、特に相性の良いさつまいも・栗・枝豆・とうもろこしをそれぞれ合わせることで、組み合わせを味わえるだけでなく、見た目も華やかに今っぽく仕上がっている。
また塩味との組み合わせもできるため、お菓子や甘いものが苦手な方もお酒のおつまみとして楽しむことができる。
ラストは、ハレの日などのお祝い事の際に食べるという、甘めの味付けのおもてなし料理「金時豆入りばらちらし」。
展示で合わせているお茶は地元の晩茶「阿波晩茶」で、お皿は地元の焼きもの「大谷焼」、そしてお皿の下に敷いている和紙も「阿波和紙」という風に地元の素材を使ったコーディネートもこだわっている。
「パンの消費量日本一」という徳島県の特性を活かし生まれたのが「グルテンフリーの金時豆入り蒸しパン」。
広い世代に愛される蒸しパンには、バラ寿司同様の金時豆・徳島れんこん・徳島さつまいもを入れ込んで。
パンが好きな徳島県民がカフェやパン屋で見たこともないような蒸しパンを見つけて、そこから地元の昔からの食文化を知って興味を持つ可能性が生まれるだろう。
どのメニューも、もともとの郷土料理の形や地域の特性をよく知ったうえで考えられていて、本当に残していこうという想いが感じられた。
もともとの郷土料理の形では試すことのなかった人も、進化したメニューを入り口にして出合い知ることで、元を辿って郷土料理に触れるきっかけが作れるかもしれない。
最後に『新・郷土料理キッチン PROJECT』プロジェクトリーダー窪田理恵子氏より、今回のヴィーガン芋煮カレーうどんを例に今回のプロジェクトについてこう話した「なぜやろうと思ったかというと、例えば芋煮も山形県の方に聞いても、芋煮は芋煮であって、確かに人気はあるけど現状の芋煮以上にはなかなか広がっていかない。日本全国・世界に届けようと思った時にやっぱりどこかが引っかかって、それ以上はちょっと地元の力だけでは難しいとかいろんなお話を聞いた時に、せっかく今海外の方がたくさん来ているから食べられない人も本当は鍋にして全員で囲むから美味しいんだという発想に変えて、全員がこの鍋で作ったらどうなるんだっていうのを考えました。海外にいる人に届けてみようっていう切り口をいれてみたり、ちょっと誰かに届けようと思うと、急に料理ってバージョンアップするんですね」。
地域の方々ともお仕事することの多い窪田氏だからこそ、地域から届く悩みの声をもとに、「食」をもっと魅力的なものとして多くの人に発信できるようにと考えている。
また今後については、「食育という観点からも、郷土料理をバージョンアップしたものを給食で出してみるというのも、新しい取り組みかもしれない。残していきたいものをこのプロジェクトをきっかけに、シティープロモーションや職場のリアルだけではなくて、新しい観光や食の切り口になればと思うので、ぜひ皆さんからいろんな意見をいただきたいんです」と本プロジェクトの希望や熱い想いを語った。
今回実際に直接プロジェクトに関わる皆さんからお話を聞いてみて、昔の料理をこうやって知ってもらう・試してもらうという「PR」方法もあるのだということが驚きだった。
「食」一つでいっても、毎シーズン新しいものがどんどんいろんな国から登場して流行っていっての繰り返しで、昔の料理の中には忘れ去られつつあるものもある。しかし、そんな日本で昔からある料理がこんなにも形を変え、だけど残しておきたい大切な要素は生かしたまま、多くの人にマッチする形に進化して再び多くの人に楽しんでもらえるものになるなんて想像していなかった。
変わることは悪いことではなく、愛し残すための方法なんだというのを実感し、心にもグッときた発表会だった。
八芳園交流コンテンツプロデュースが立ち上げた新しい取り組み『新・郷土料理キッチンPROJECT』は、食事の在り方を考え、地域に根付いた郷土料理をさまざまな多様性に配慮した新・郷土料理として再定義する、地域の食文化を進化させることを目的としたプロジェクト。
文化的、社会的、心理的、栄養的な多くの多面的要素を持つ“食事”の在り方を改めて考え、ハラールやヴィーガン、グルテンフリーをはじめあらゆる食の多様性を取り入れながら、交流の機会を設けることにより、地域の郷土料理や食文化を代表する郷土料理の魅力を磨き上げる。
全国から賛同した自治体や企業、生産者らを募り、共同開発を進めていく。
【株式会社八芳園交流コンテンツプロデュース】
https://happo-en-contents.co.jp/
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